薬剤局所散布による駆除

従来のドクガ対策

公園や河川敷遊歩道など不特定多数の人が利用する施設や環境におけるドクガ幼虫の駆除は、従来苦情や刺傷被害の発生後すなわち幼虫が大きく成長して分散した後に行われていました(左下図。青矢印は幼虫の位置を示す)。 この場合の駆除方法は、幼虫発生域全体に薬剤を散布すること、草刈りを行うこと、あるいは施設閉鎖等の立ち入り禁止処置でした。
幼虫は成長すると薬剤が効きにくくなること、分散するためすべての幼虫に薬剤を致死量作用させることが困難なこと(そのため、過剰に散布しがちになる)、死体の乾燥等により毒針毛が風に舞い、幼虫に接触しなくても皮膚炎になることなどから、成長・分散後の薬剤散布の効果かなり少ないばかりか、散布することによるマイナス面も指摘されています。 また、この時期の幼虫は数日後には蛹になるので、薬剤を散布しなくてもそのうち被害は軽減する可能性が高く、対費用効果の点でも疑問です。
草刈りは幼虫の発生環境を改変し餌を減少させるとともに、草丈を低くすることで上半身への刺傷被害の軽減に効果があると考えられます。 しかし、即効性に乏しく、場合によっては生息環境の破壊で幼虫がより広域に分散することも想定されます(ただし、普段から管理地の草刈りを行っておくことはドクガ発生抑止にかなり有効です)。 従って、刺傷被害抑制にもっとも有効な手段は、幼虫が蛹になるまで発生域には近づかないということでした。 そこで、北海道内におけるドクガの生態の調査結果に基づいて、苦情処理ではなく刺傷被害抑止という観点からの駆除方法を提案してみました。

新たなドクガ対策

ドクガ幼虫は、苦情・被害が顕著となる成長分散期前は、集団を作って暮らしています。 分散は徐々に起こりますが、集団を形成するのは、おおむね道南では6月上旬、苫小牧海岸線など春の遅いところでは6月下旬までです。 この時期の幼虫は2センチに達せず、大発生時以外はほとんどがキイチゴ類、ハマナス、ノイバラ、栽培品種のバラ類など低木のバラ科を食しています。 また、薬剤感受性も高く、毒針毛も少ないなどの利点もあります。 従って、幼虫がまだ小さくて分散していない時期に、幼虫集団に直接薬剤を散布するのが理想的な駆除方法と言えます。 薬剤は幼虫集団にしか散布しないので、他の生物に対する影響も最小限に抑えることが出来ます。 さらに、この時期の幼虫は毒針毛が少ないので、駆除後の死体による皮膚炎の発生もほぼ無いはずです。
この被害発生前の幼虫集団期の駆除が有効であろうことは、1961年の北海道南部全域の大発生時の報告書ですでに触れられています。 しかしながら、その後組織的に行われたことは無いようです。 理由としては、この方法の欠点である、幼虫もそれらの集団も小さいので見つけづらいこと及び刺傷被害が出るほど大発生するかどうかが不明なことが挙げられるでしょう。
時代の変化とともに殺虫剤などの薬剤散布に対する考え方も変化しており、幼虫への直接散布は現在もっとも理解が得やすい方法と考えられます。 そこで、公園管理者や駆除担当業者は、幼虫集団をただ闇雲に探すのではなく、管理区域に生えていたり植えられているバラ科低木や成虫の集まる外灯をリストアップし、それらを毎年定期的に探索し、見つけた幼虫集団を駆除し、発生・駆除記録を残すという一連の作業を行うことになります。 これには経験も必要となりますが、逆に会社や団体の技術的なセールスポイントと捉えることもできます。

幼虫集団への直接散布による駆除の方法

まず、幼虫集団を見つけ出さなくてはなりません。 幼虫が密な集団を作っている時期は、孵化直後の8月以降から、分散が始まる前の5月下旬~6月中旬位まで(地域や局所的な気候によってかなり異なる)です。 越冬中と直前直後(大体12月の積雪直前から4月にかけて)は、幼虫は枯れ葉の下の地面に糸を吐いて巣を作っていますし、雪が積もると見えなくなるので、よほど慣れないと発見は困難です。 また、越冬前は、幼虫も小さく周囲の草も茂っていますので、環境や発生密度によっては発見が困難となります。 越冬直後も地面に近いところに幼虫集団がいるので見つけづらく、見逃す可能性も高くなります(右の図)。 従って、幼虫集団を見つけるのにもっとも適した時期は、暖かい地域では5月のゴールデンウィーク明けから5月一杯、苫小牧海岸線など春の遅い地域では5月中旬から6月上旬位までが良いでしょう。
この時期に、まず、発生状況を調査します。管理地内のキイチゴ、ノイバラ、ハマナスを見回って、幼虫集団を探します。 あらかじめこれら食草の位置を地図上にプロットして、探索順を決めておくと良いでしょう。 特にハマナスやバラなどを植栽している公園などでは、見落としがないように注意して探します。 また、利用する人々の動線周辺を特に丹念に探すことも被害防止の上で重要ですし、管理地に隣接する草むらの探索も必要です(幼虫が成長・分散し始めると管理地内にも移動して来ることがあります)。 幼虫集団やその食痕の様子については、調査のページを参考にして下さい。
次に、発見された幼虫集団に噴霧器を用いて直接薬剤を散布します。 幼虫の休息場所と採餌場所が少し離れている場合もありますし、見えている以外にも葉の裏などにたくさん付いているときがあるので、注意が必要です。 また、散布の刺激で地面に落下する幼虫もいるので、集団直下の地面にかけても少し散布しておくと良いでしょう。 必要以上に広く散布すると、この時期の天敵であるアリ類や寄生バエなどにも影響を与えるので、散布範囲は最小限にします。 使用する薬剤種や剤型は、この方法では小回りの利く小型の噴霧器が適しているで、市販のヨトウムシ用ピレスロイド剤や有機リン剤の乳剤で十分です。 もし可能であれば、後日散布効果を確認するために薬剤散布時にテープやポールなどで目印を付けておきます(右の図)。 数日~数週間後、散布効果を確認することと、前回見落とした幼虫集団を駆除するためにこの作業をもう一度行います(できれば数回行った方が確実です)。 作業の効率及び正確さの点から、探索と駆除を分業するなど複数名で行った方が良いでしょう。
幼虫集団のいる部分を取り去ることが可能であれば、薬剤散布ではなく、直接その部分の下にビニール袋などを広げ、枝や葉ごと切り取って袋の中に入れてしまう方法でも効果は同じです。 また、雑草地など幼虫の食草の抜去が可能な場合は、このときに抜いてしまえばその後の発生の抑止に効果があると考えられます。
幼虫集団を容易にかつ確実に見つける技術を習得した場合、これらの探索・駆除作業は越冬前の秋に行うことも可能になります。

データの蓄積と発生予察

幼虫直接散布の利点は、効果が確実、環境への影響が少ない、刺傷被害発生前に行う、(場合によりますが)安価、安全な駆除作業など多数の利点があります。 さらにこの方法は、管理地内すなわち定点の発生状況を事前に調査することを基本としています。
そこで、その調査内容を毎年記録しておけば、年ごとの増減を知ることで大発生に向かっているのか、少ないレベルで落ち着いているのかなどの傾向を把握することが出来ます。 すなわち、駆除作業の積み重ねが定点調査をすることになるわけです。 市町村単位など広域にデータを収集すると、住民へ事前に情報を提供することが可能となります。 従って、将来にも有効なデータの採取が重要になってきますので、事前にしっかりした調査駆除計画を立てておきます。 逆に言うと、この方法はこの様な駆除計画を立てることが出来る(=予算化が可能)のも利点の一つです。 また、他の薬剤散布と異なり幼虫に直接薬剤をかけるので、よほどの悪天候でもない限り天候に左右されずに作業を実施することができます。 次に、調査票または作業報告書に書き込むべき事項について解説します。
比較的小規模な○×公園をモデルに考えましょう。 この公園は、四角形の敷地で、西側に雑草地があり、四方がハマナスの生け垣で囲まれており、中央部にバラなどが植えられた花壇があると想定します。

平成??年度第2回○×公園ドクガ調査
調査日:  年  月  日   調査時刻:  :   ~   :    天候
調査者:         (  名)
薬剤駆除: 使用薬剤名    散布方法    希釈倍率・使用量

調査対象 幼虫群数 駆除 備考
ハマナス生け垣北側 5 薬剤 1群を採集し、標本とした
ハマナス生け垣東側 1 薬剤 写真撮影
ハマナス生け垣南側 3 薬剤
ハマナス生け垣西側 6 薬剤
バラ花壇 2 枝ごと切除

狭い公園では、1度の調査で必要な情報は、この程度だと思われます。広くなるにつれて、調査対象が多くなります。 このような調査・駆除を3日~1週間おきに3回ほど行えば、ドクガ幼虫の成長・分散前に、密度をかなり低くすることができ、被害発生を抑止することができるでしょう。
これらの調査が終わったら、駆除経過をまとめて報告書等にまとめておくと、次年度作業の参考になります。
その文書の中には、次のような表があると良いと思います。

この図からは、5月6日の初回調査時は、時期が早すぎて発見群数が少なかった可能性があること、その後の駆除作業で5月24日の最終調査時にはほぼ駆除に成功していることが読みとれると思います(ただし、図はあくまでも理想例で、実際のデータではありません)。