カビ毒について
北海道立衛生研究所食品薬品部食品科学科研究職員 青柳 光敏

 平成20年9月に事故米の不正流通問題が起きました。これは食品衛生上の問題から工業用に用途を限定して流通が認められた事故米が食用に転用された事件 であり、その後の調査で、給食の米飯、お菓子や焼酎などの原材料等に不正に使用されていた実態が次々と明らかになり、全国に大きな衝撃が走りました。この 非食用の事故米からは、農薬やカビ毒のアフラトキシンB1などが検出されました。食品中の残留農薬に関しては関心が高く、知識のある方も多いと思いますが、カビ毒については、「それって何?」と思われる方が少なくないのではないでしょうか?ここではカビ毒について少しお話することにします。

カビ毒とは
 カビは食品に付着して、その栄養分を吸収しながら増殖し、この過程で様々な化学物質を作り出します。ほとんどの方が医者にかかって「抗生物質」を処方さ れた経験をお持ちだと思いますが、微生物の増殖を抑える働きをもつ抗生物質もカビが作り出す化学物質です。1929年にフレミングが、青カビが作るペニシ リンを発見して以来、様々な抗生物質が発見されヒトや動物の治療などに役立っています。しかし、その一方で、ある種のカビからはヒトや動物に健康被害をも たらす有害な化学物質が作り出されます。それがカビ毒(マイコトキシン)と呼ばれているもので、この中には、肝臓、腎臓等に障害を与えたり、造血機能障害 や免疫機能不全などを引き起こすもの、さらには強い発がん性を示すものもあります。カビ毒の多くは熱に強いので、加熱によってカビが死滅してもそのまま食 品中に残ることが多く、このような食品を食べて食中毒などの健康被害が引き起こされることもあります。このため、毒性の強いカビ毒に汚染された食品は、そ の流通などが食品衛生法で厳しく規制されています。

日本で規制されているカビ毒
 現在、我が国で規制の対象になっているカビ毒は表に示すアフラトキシンB1、デオキシニバレノールおよびパツリンの3種類です。

◆食品衛生法により規制されているカビ毒◆



1.アフラトキシンB1
 1960年にイギリスで七面鳥が大量死した「七面鳥X病」の原因物質として発見されたアフラトキシンは、熱帯から亜熱帯地域にかけて生育する Aspergillus flavus などのカビにより作り出されるカビ毒の総称で、10種類以上の類縁化合物が発見されています。その中でも、アフラトキシンB1は天然物質中で最強の発がん性物質のひとつであり、肝がんや肝障害を引き起こすことが報告されています。その毒性の強さや汚染の頻度から、現在我が国ではアフラトキシンB1を食品衛生法により規制しています。ピスタチオ、ピーナッツなどのナッツ類、とうもろこしなどの穀類、ナツメグなどの香辛料や干しイチジクなどにアフラトキシンB1汚染が見られますが、これまで検出された食品はすべて輸入食品であり、国内産食品からは検出されていません。前述のとおり、このカビ毒は非常に毒性が強いため、輸入時の検査でアフラトキシンB1が検出されると、国の検査命令により、輸入業者に対し全ロットの検査が義務づけられ、適法と認められるまで輸入手続きが認められません。

2.デオキシニバレノール
 低温・多雨の気候条件下で栽培された小麦、大麦およびとうもろこしなどの穀物に、しばしば赤カビ病が発生し、赤カビ汚染穀類の摂取により人や家畜に食中 毒を起こしてきました。北海道でも、1949〜1950年、1956年に赤カビに汚染された麦類などを原料とした加工食品(うどん、パンなど)による食中 毒の報告例があります。この赤カビ病の病原菌である Fusarium 属菌が作り出すカビ毒は多数見つかっていますが、その中の一つがデオキシニバレノールです。デオキシニバレノールは1972年に日本で発見されたカビ毒 で、消化器障害、造血機能障害などを引き起こすことが報告されています。このカビ毒は、北米、ヨーロッパ、アジア、オセアニアなど世界中で生産された穀類 から検出されており、日本で生産された穀類からも検出されています。また、当科が1980年代に行った汚染実態調査でも、北海道産小麦、うどん、そばなど から低濃度(81μg/kg以下)検出されましたが、いずれも基準値以下であり、安全性に問題はありませんでした。

3.パツリン
 パツリンはリンゴの腐敗菌である Penicillium expansum などが作り出すカビ毒で、脳・肺浮腫や消化器障害などを引き起こすことが報告されています。パツリン汚染はリンゴジュースやリンゴ果汁に多くみられます が、カビや虫食いなどで表面が傷んで商品価値の低くなったリンゴを果汁原料などに使用することが原因と考えられています。当科が行った汚染実態調査では、 北海道産果汁100%リンゴジュースからパツリンは検出されませんでした。一方、外国産果汁100%リンゴジュースでは、パツリンが検出されたものもあり ましたが、いずれも基準値以下であり、安全性に問題はありませんでした。

おわりに
 現在、我が国で規制されているカビ毒は前述した3種類のみですが、カビ毒には非常に多くの種類(300以上)があり、その中には、オクラトキシンAやフ モニシンなどのように実験動物で発がん性が認められたものもあります。我が国におけるカビ毒対策は、厚生労働省、農林水産省および内閣府食品安全委員会の 連携のもとに行われており、汚染実態調査や暴露調査などの様々な調査を経て、今後新たな規制が検討されていくものと思われます。

(参考資料)
細貝祐太郎,松本昌雄監修:食品安全性セミナー5 マイコトキシン,中央法規,東京,2002年
FFIジャーナル(特集 カビ毒と食品の安全性).Vol.211,No.12,2006年


プロフィール:あおやぎ・みつとし(青柳の「柳」は「木+夕+卩」が本来の文字)。平成6年より薬用資源および生薬等に関する試験検査・調査研究に従事。平成14年より農産食品および加工食品中の残留農薬、カビ毒、食品添加物等に関する試験検査・調査研究に従事。
 
 

この記事は、2009年7月15日に「しゃりばり」ウェブページに掲載されたものです。