健康食品と無承認無許可医薬品
北海道立衛生研究所食品科学部乳肉科勤務 北海道立衛生研究所薬品保健科 平間祐志


 韓国の人気ドラマ「宮廷女官チャングムの誓い」を見たことのある人は、宮中で王に仕える女官たちが王の健康のためにつくる食事を薬としての効果も期待して描かれていたことを覚えていると思います。体調や病気の種類に合わせて様々な食材を巧みに使い分けて料理をつくっていました。主人公チャングムの豊富な知識と向上心、そして主演女優イ・ヨンエの類い希な美貌に魅せられたのは私だけではないと思います。身体によい食材を日常的に食べて健康を保つという考え方は、「薬食同源」という中国の古くからの考え方に根ざしたものです。そしてこの考え方は、今日の健康食品に通じるものがあります。しかし、健康食品のなかには効果を際だたせるために医薬品成分を混入させたものがあり、かえって健康を害する事例が発生しています。健康食品を正しく理解し、悪質な健康食品にだまされないようにする注意が必要です。

健康食品の位置づけ
 私たちは日常生活の中でいろいろなものを食べたり飲んだりします。その種類は大きく分けると「食品」と「医薬品」の2種類に分けられます。病気になったときに飲む薬は「医薬品」ですが、これは薬事法によってその有効性や安全性を確保するために必要な規制が定められています。一方、空腹を満たすための食事や清涼飲料水などは「食品」です。「食品」は食品衛生法に必要な規制が設定され、安全性が確保されています。そして、健康食品も「食品」に分類されています。健康食品の中で、国が定めた一定の有効性や安全性が認められたものについては、「保健機能食品」と表示することが認められています。この中には「特定保健用食品」と「栄養機能食品」の二つがあります。「保健機能食品」以外の健康食品は、一般食品と同列の「いわゆる健康食品」として分類されるため、健康に対する効果には特に規定がありません。すなわち、「いわゆる健康食品」については製造者が普通の食品より健康に良いと思った商品を健康食品として販売することになります。

ダイエット用健康食品による健康被害
 インターネットを通して簡単に外国のサプリメントを個人輸入できる時代になりました。しかし、その品質や安全性については国内では全く保証されていないことにお気づきでしょうか。

 平成13年の夏頃から、中国から持ち込まれたダイエット用健康食品を服用して肝機能障害を起こす事例が発生しはじめ、平成14年5月以降、患者数は急増して796人にのぼり、そのうち4人が死亡しました。ダイエット用健康食品の中にはいくつかの食欲抑制に効果のある医薬品成分が違法に添加されていたことがわかっており、そのなかでN−ニトロソフェンフルラミンという化学物質が肝機能障害の原因となったと推定されています。一般に健康食品は医薬品とは異なり劇的な効果が現れることはありませんが、医薬品を添加したダイエット用健康食品は効果が劇的であったに違いありません。痩せたいという想いから、少々具合が悪くなっても服用をやめなかった方もいたことでしょう。しかし、このような違法な健康食品の服用を続けると、命にかかわるような健康被害を受けてしまう恐れがあります。このような医薬品成分が不法に添加されている健康食品のことを、「無承認無許可医薬品」と呼び、薬事法で規制の対象になっています。

その他の無承認無許可医薬品
 ED(勃起不全)治療薬バイアグラの有効成分やその類似化学物質が、中国製の強壮効果を標榜する健康食品から高頻度で検出されています。健康被害は報告されていませんが、高血圧症及び狭心症の薬である硝酸剤や一酸化窒素(NO)供与剤と併用すると降圧作用が増強され、過度に血圧を下げる恐れがあります。

 中国で製造されている漢方薬には日本の漢方薬と異なり医薬品成分が配合されていることがあります。このような場合には、事前に中国の公的機関によって登録・許可を受け、添加した医薬品成分及び含量を明示することになっています。しかし、悪質な製品では効果の高い漢方薬に見せかけるために医薬品成分が添加されていても、そのような表示はありません。特に、リウマチ、喘息、アトピーなどの疾患に用いられる漢方薬に、抗炎症薬などの医薬品成分が添加されているものが見つかっているため注意が必要です。

無承認無許可医薬品に対する当所の取り組み
 北海道立衛生研究所では平成15年から毎年、無承認無許可医薬品による健康被害を防止する目的で、いわゆる健康食品の試買検査を実施しています。医薬品の分析には、高速液体クロマトグラフ/質量分析計(LC/MS)という分析機器を使用します。正確な分析をするためには、あらかじめ医薬品の標準品を使用して分析条件を検討する必要があります。当所では、無承認無許可医薬品として検出された報告のある医薬品成分をはじめ、食欲抑制、強壮作用、抗炎症作用、女性ホルモン様作用、男性ホルモン様作用に関連した医薬品成分などについても分析条件の整備を進めています。

 当所でこれまでに検出した医薬品成分は、いわゆるダイエット茶のなかから大腸刺激性下剤のセンノシドA及びB、ダイエット用健康食品のなかから中枢神経性食欲抑制剤シブトラミン、強壮作用を標榜する健康食品の中からバイアグラの有効成分、シルデナフィル、タダラフィル、リウマチ用漢方薬の中から抗炎症薬インドメタシンなどがあります。 検出された「無承認無許可医薬品」に共通する特徴は、医薬品として十分に効果のある量の医薬品成分が混入されていること、パッケージや説明書に医薬品成分の記載がないこと、安全性の確かめられていない医薬品の類似化合物が混入している場合があることなどです。

健康被害に遭わないために
 悪質な健康食品による健康被害に遭わないためには、信頼性の高い「保健機能食品」や信用のあるメーカーの健康食品の中から自分にあったものを選ぶことが重要です。また、インターネットなどで海外から個人輸入した健康食品の使用は自己責任ですから、以上のことをふまえて十分に注意してください。

 最近の健康食品は錠剤やカプセルなど、従来の医薬品と同じような形態のものが増えてきており、製造の過程で有効成分が濃縮されていることも珍しくありません。健康食品は食品だからといって大量に摂取すると、かえって健康を損なう原因となることがあります。また、健康食品を薬のように考えて、症状が改善されないままいたずらに長期間摂取することも、病院で治療を受ける機会を遅らせてしまう恐れがあり注意する必要があるでしょう。
 なお、健康食品の安全性や無承認無許可医薬品の情報は次のインターネットサイトに詳しく掲載されています。

独立行政法人国立健康・栄養研究所のホームページ、「健康食品」の安全性・有効性情報
http://hfnet.nih.go.jp/
厚生労働省のホームページ、健康被害情報・無承認無許可医薬品情報
http://www.mhlw.go.jp/kinkyu/diet.html


平間祐志(ひらま ゆうじ)氏
1956年生まれ。室蘭市出身。80年北海道大学水産学部水産化学科分析化学講座卒業。86年北海道大学大学院理学研究科博士課程単位修得済退学。理学博士。同年、北海道立衛生研究所食品科学部乳肉科勤務。現在、食品薬品部薬品保健科研究主査。

この記事は、2007年8月7日に「しゃりばり」ウェブページに掲載されたものです。