毒草による食中毒
北海道立衛生研究所食品薬品部薬用資源科長 姉帯正樹


 自然に恵まれた北海道は山菜の種類が多く、大勢の愛好家が雪解けと共に野山へと向かいます。山菜を自宅の庭で栽培している人も珍しくはありません。ところが、誤って毒草を採取して食べることにより、食中毒が毎年のように発生しています。そこで、毒草による食中毒を、北海道で発生した事例を中心に紹介します。

北海道の事例
 表に示すように、この51年間で46件の事例があり、昭和41年までに9名が、平成15年に1名が亡くなっています。時期は4月と5月に集中しています。



 野生品ではトリカブトが16件(死亡5名)と最も多く、ドクゼリで4件、ドクウツギ、ドクニンジンで2件ずつ起きています。一方、栽培品ではチョウセンアサガオ7件、スイセン5件、クワズイモとイヌサフランが各2件です。
 昭和と平成に分けて比較すると、昭和に発生した20件のうち、チョウセンアサガオの2件以外は野生品と考えられます。平成に発生した26件のうち、野生品はトリカブトとドクニンジンの11件で、残りの15件はスイセンなどの身近にある庭の植物やクワズイモなどの屋内にある観葉植物でした。

最も危険なトリカブト
 北海道にはニリンソウ(フクペラ、キンポウゲ科)の地上部を山菜として食べる習慣があります。その葉は有毒なトリカブト(キンポウゲ科)とよく似ており、トリカブトをニリンソウと間違って食した事例が大部分です。その他、モミジガサ(シドケ、キク科)と間違った例もあります。
 トリカブトは全草に猛毒のアルカロイドを含んでおり、根の毒性が最も強く、葉、茎の順に弱くなります。葉を1g食べただけで重篤な中毒を起こした例もあり、花粉も有毒です。
 中毒症状はときに10-20分以内に現れ、初期には口の中の灼熱感としびれ、手足末端のしびれ、めまいなどが、中期には涎を流し、嘔吐し、不整脈も観察されます。末期になると、血圧が低下し、呼吸麻痺を起こし、痙攣も起きてきます。死亡は大多数が発症後6時間以内です。

トリカブトとニリンソウ
トリカブト(左、塊根、秋に紫の花)
とニリンソウ(右、春に白い花)

その他の毒草
 ドクゼリ(セリ科)の若芽は山菜のセリ(セリ科)と、タケノコ状の根茎はワサビ(アブラナ科)とよく間違えられます。全草に痙攣性の毒があり、死者数は2名を数えます。

ドクゼリとセリ
ドクゼリ(左、タケノコ状の根茎)と
セリ(右、ひげ根)


 ドクウツギ(ドクウツギ科)の果実は美味しそうに見え、しかも甘いため、子どもが食べて中毒を起こすことがよくありました。トリカブト、ドクゼリと共に日本三大毒草と称されています。

ドクウツギ
ドクウツギ


 ドクニンジン(セリ科)は古代ギリシャで罪人の毒殺に用いられた毒草です。北海道では札幌市内のごく限られた場所に野生化しています。ネズミの尿のような悪臭があり、茎に赤紫色の斑点があります。平成9年4月、ドクニンジンをシャク(セリ科)と間違えた中毒事故が2件起こっています。生のドクニンジンの葉約7gで中毒を起こす可能性があります。

ドクニンジンとシャク
ドクニンジン(左、赤紫色の斑点、悪臭)と
シャク(右、茎に白い毛)


 チョウセンアサガオ(ナス科)を誤って食べると幻覚が現れ、精神錯乱を引き起こします。平成2年4月に北見市で起こった事例は、ムロに保存しておいた根をゴボウと間違って食べ、一家3人が昏唾状態に陥ったものです。その他、葉をアシタバ(セリ科)やモロヘイヤ(シナノキ科)などと間違った食中毒が発生しています。

チョウセンアサガオ
チョウセンアサガオ

 スイセン(ヒガンバナ科)をニラ(ユリ科)と間違って食べて中毒を起こした事故が、平成5年〜18年に5件発生しています。中毒の特徴は食べてから5分程で起こる激しい嘔吐で、それほど重症になることは少ないようです。

スイセンとニラ
スイセン(左、球根)と
ニラ(右、強い臭気)

 イヌサフラン(コルチカム、ユリ科)は球根が特に危険です。花も有毒で、死亡例があります。葉は1枚で重篤な中毒、2、3枚で死亡の可能性があります。平成15年4月、上川管内中富良野町において、庭に植えていたギョウジャニンニク(ユリ科)と間違えて食べた女性が死亡しました。

イヌサフランとギョウジャニンニク
イヌサフラン(左、球根)と
ギョウジャニンニク(右、強い臭気)

 平成16年にも、庭に植えていたアマドコロ(ユリ科)と間違えてイヌサフランを食べた食中毒が発生しています。
 観葉植物のクワズイモ(サトイモ科)はえぐみが強くて食べられませんが、平成4年に釧路市で、平成10年には函館市で誤食されました。函館市の男性は太い根茎を刻んでみそ汁に入れて食べ、粘膜がただれて大いに苦しみました。

毒草による食中毒防止のために
 日本には毒草が身近に200種類ほどもあると言われていますが、毒草の簡単な見分け方はありません。山菜を食べようと思うなら、一種類ずつ確実に覚える必要がありますが、命にかかわる毒草の種類は限られますので、難しいことではありません。
 平成15年春以来、当所は薬用植物園において山菜講習会を開催し、一般市民及び食品衛生監視員を対象に山菜と毒草に関する知識の普及を図っています。更に、当園では「山菜・毒草園」を設けておりますのでご利用下さい。申し込みは、TEL 011・747・2746へ。

■姉帯正樹(あねたいまさき)氏
昭和24年北海道喜茂別町生まれ。昭和47年北海道大学理学部化学科卒業。昭和52年同大学院理学研究科化学専攻博士課程修了。理学博士。昭和53年アルバータ大学化学科博士研究員。昭和57年北海道立衛生研究所勤務。平成6年より現職。