北海道立衛生研究所企画総務部企画情報室研究情報科研究主査 横山裕之

電磁界とは
 電気が流れれば、電磁界が発生します。電磁界とは、電界と磁界が密接に絡み合ったものです。電流や磁気の方向や強さが変化すると、電界と磁界が互いに影響しあって、波のように伝わる現象が生じます。波を電磁波、波が伝わる場所を電磁界といいます。
 日常生活で使用している50/60ヘルツの周波数の電気が引き起こす電磁波の現象は、波長が数千キロメートルレベルなので電磁波として観測できないため、磁界の強さである磁束密度として観測します。ちなみに、携帯電話の周波数帯の場合は1ギガヘルツ程度ですので、波長がセンチメートルレベルとなり、電磁波として観測することが可能となります。今回は、日常生活で使用している50/60ヘルツの周波数の電磁界に限定して述べることとします。
 電磁界を発生する様々な製品は、現代社会の職場でも家庭でも色々な分野で利用されています。これら電化製品の増加は、人々の生活を便利で快適なものにしましたが、電磁界が持つ生体影響について懸念する声も大きくなってきました。1979年に、アメリカで送電線近傍に住むこどもの小児白血病の発生率が高いとの疫学調査が発表され、それ以降、多くの疫学的、生物学的研究が行われ、今日まで色々な報告がなされていますので、このことについても触れます。

名称 周波数(Hz) 波長 用途






ガンマ−線 3×1018 0.0000001mm 医療・食品照射・病害虫の防除
X線 3×1016 0.00001mm 材料検査・X線写真
紫外線 3×1015 0.0001mm 殺菌灯・美容
可視光線 3×1013 0.01mm 光学機器
赤外線 3×1012 0.1mm 赤外線ヒーター
サブミリ波 3×1011 1mm 光通信システム
ミリ波(EHF) 3×1010 1cm レーダー
センチ波(SHF) 3×109 10cm 電子レンジ、衛星通信、携帯電話
極超短波(UHF) 3×108 1m 消防通信、テレビ放送
超短波(VHF) 3×107 10m FM放送、テレビ放送
短波(HF) 3×106 100m アマチュア無線、短波放送
中波(MF) 3×105 1km AM放送
長波(LF) 3×104 10km 海上無線
超長波(VLF) 3×103 100km 長距離通信
極超長波(ELF) 300以下 1000km以上 送配電線、家電製品

身の回りの電磁界の強さ
 私達は、平成12年度から14年度までの間に、札幌市内の13世帯に協力を得て、居住環境における様々な家電製品の磁界の強さ、すなわち磁束密度の調査を実施しました。磁束密度の単位はテスラですが、通常はマイクロテスラを用います。
 35種類87製品の家電製品の表面について測定した結果、1〜10マイクロテスラのものが、テレビ、空気清浄機、蛍光灯などで59製品、10〜50マイクロテスラのものが、ACアダプター、インターホン、洗濯機などで20製品、50〜100マイクロテスラのものが、電話機子機電源、布団乾燥機、除湿機などの7製品、100マイクロテスラ以上のものが、治療用吸入器の1製品となりました。
 各製品は、機種ごとに幅があり、たとえば、掃除機、扇風機、ドライヤなどは、1〜10マイクロテスラの範囲に入っている機種もあれば、10〜50マイクロテスラの範囲に入っている機種もありました。また、磁束密度は、発生源からの方向や距離に依存するため、同じ表面でも箇所によって違います。今回の測定値は、人体に接する可能性が高くて最大の値を示すところとしました。
 50マイクロテスラを上回った8製品の表面及びそこから離れた地点(各4,8,15,30センチメートル)における磁束密度の減衰曲線を図1に示します。家電製品との間に距離をおくことによって磁束密度は減衰しています。特に、治療用吸入器では、表面から30センチメートル離すことによって、920マイクロテスラから4マイクロテスラまで減衰しました。家電製品から発生する磁界による人体へのばく露量は、家電製品との距離を15センチメートル以上とることによって、大幅に軽減できることがわかりました。


パソコンのディスプレイの防磁対策
 先の調査において、テレビとパソコンのディスプレイに違いがあることもわかりました。テレビの表面では、3〜7マイクロテスラ、一方、デスクトップ型パソコンのディスプレイの表面では、それよりも低い0.6〜3マイクロテスラでした。
 わが国では、1993年に日本電子工業振興会が、業界向けに「情報処理機器用表示装置の低周波数電磁場に関するガイドライン」を定めています。その許容量は、5 ヘルツ〜2 キロヘルツの交流磁場の場合、50センチメートル離れた地点で0.25マイクロテスラ以下とされています。これは、スウェーデンにおけるVDT、いわゆるコンピュータなどのディスプレイの安全性に関する規格を基に、技術的に実現可能な低いレベルとして、さらに厳しく設定したものです。
 デスクトップ型パソコンのディスプレイの測定値が低いのは、この業界向けのガイドラインを遵守して、海外へ輸出するための防磁対策をとっているためと考えられます。実際の測定においては、パソコンのディスプレイの表面から30センチメートルの地点で0.1〜0.2マイクロテスラに減衰しており、先のガイドラインがクリアされていることを確認しました。

現在の取り組み
 平成16年度から3年計画で、個人の生活実態を反映する日常のばく露量を把握するために、人体の腰部に携帯型の磁界測定器をつけていただいて、約1週間の磁束密度を連続測定しています。測定器は、国際的にも定評のある「EMDEX Lite」を用い、30秒毎の磁束密度が記録されるように設定しています。これまでのところ、ほとんどの時間帯において1マイクロテスラ以下の数値で推移していますが、通勤、通学時の電車、地下鉄等の交通機関を利用した場合に最大で数マイクロテスラの断続的なピークが出現すること、引込み線など電線が近傍にある部屋における数値が、大きい傾向にあること等が特徴としてあげられます。
 今後ともデータを蓄積し個人の生活様式と電磁界によるばく露量との関連及び平均的なばく露量について研究を進めていくことにしています。

電磁界の熱作用や刺激作用
 電磁界の健康影響は、その周波数によって異なります。参考のため、電磁波の名称、周波数、波長、主な用途をまとめて表1に示しておきます。エネルギーの大きい放射線やX線及びある種の紫外線の周波数領域では、発がん性があることはよく知られています。また、マイクロ波やラジオ波の周波数領域では、エネルギーが大きい場合には、発熱作用や生体へ誘起される電流による刺激作用がありますが、一般環境では心配するようなレベルではありません。
 日常生活で使用している50/60ヘルツの周波数の電気の健康影響は、主として生体内で誘起される電流による刺激作用によるものと考えられています。この周波数帯域の電磁界にあっては、電界は比較的容易に遮蔽できるのに対し、磁界は遮蔽するのが容易ではありません。このため、その生体影響については、電界より磁界の作用の可能性の方が高いと考えられます。
 国際非電離放射線防護委員会 (ICNIRP) は、「時間変化する電界、磁界及び電磁界によるばく露を制限するためのガイドライン(1998)」を発表しています。これに基づくと、周波数50ヘルツの家電製品については100マイクロテスラのばく露制限が適用されます。これは、電磁界によって引き起こされる神経や組織への刺激を根拠に安全係数をとって設定されたものです。なお、発がん等を含む長期的な影響は、はっきりとした生物学的な根拠がないため、この指針値には反映されていません。
 アメリカでは、問題となった小児白血病等を含む電磁界の健康影響に関する「電磁界調査及び公衆への情報普及計画」が実施され、「電磁界ばく露量が増加すると、リスクも弱いながら増加する傾向にある。動物や細胞実験では、一貫性は見られなかったが、疫学調査を無視することはできない。」と報告されています。世界保健機構(WHO)では、1996年から2007年までの計画で、世界中の科学者が集まり、国際電磁界プロジェクトを展開していますので、その成果報告が待たれます。

横山裕之(よこやまひろゆき)
昭和34年、北海道伊達市生まれ。昭和59年3月室蘭工業大学大学院工学研究科修士課程修了。昭和61年1月に北海道庁に入庁。平成10年4月に衛生研究所において研究職員として、環境放射能に関する試験検査、調査研究に従事。その後、放射線取扱主任者として放射線障害の防止に従事。平成12年度より居住空間における電磁界に関する調査研究に従事。
 
 

この記事は「しゃりばり」No.279(2005年5月)に掲載されたものです。